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成年年齢引き下げに伴う影響と対応について

歯科医院

Q. 質問内容

 昨今、成年年齢が引き下げられましたが、歯科医院を経営するにあたり、気を付けるべき点はありますか。

A. 回答内容

1 成年年齢が引き下げの法改正
 2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これにより、2022年4月1日以降に18歳になる方については18歳になったその日から、2022年4月1日以前において既に18歳や19歳である方については、2022年4月1日に一斉に成年に達したという取り扱いになっています。
これまで、未成年の患者さんが受診する際に、親権者(保護者)の同意や署名を求める欄のある書類を用意していた先生方も多いと思います。このような部分に、今回の成年年齢の引き下げの法改正は、どのような影響があるのでようか。

2 成年年齢の法的な意義
 医療現場への影響を理解するためには、成年年齢の法的な意義をきちんと理解する必要があります。
 民法の成年年齢には、①確定的に有効な法律行為を親権者の同意を得ないで単独ですることができる年齢という意義と、②父母の親権に服さなくなる年齢という意義があります。
 よって、①の観点から、診療契約も法律行為ですので、今後、18歳や19歳の方も単独で確定的に診療契約を結ぶことができるようになります。すなわち、診療契約締結時に18歳や19歳であったという年齢だけを問題として、これらの方が後から診療契約を取り消すことはできません。
 次に、②の観点から、今後は18歳以上の方については「親権者」という概念はなくなります。そのため、18歳以上の方に対し「親権者」の存在を前提とする何らかの要求を行う対応は誤りということになります。
 あわせて理解すべきは、今回の法改正で影響のある年齢はあくまで18歳と19歳の方であって、それ以外の方(17歳未満の方や、20歳以上の方)については、これまでの取り扱いに変更はないということです。

3 親の同意の要否
 では、今後、18歳や19歳の患者の親に対して、同意を求める場面はあるのでしょうか。これについては、何を対象として同意を求めているかにより判断していくべきことになるかと考えます。
(1)診療契約成立の有効性に関する同意
 前述のとおり、18歳や19歳の方も単独で確定的に法律行為することができるようになりました。そのため、(年齢との関係で)診療契約を有効に成立させることを目的とした同意を患者の親に求めることは不要です。もっとも、親の同意を求めることにつき当該患者やその親が特段異議を述べない場合、この同意を求めること自体は問題ありません。
 ただし、法的には単独で確定的に法律行為をすることができる方に対し、「当医院ではこれからも18歳と19歳は未成年者として取り扱う。そのため、親の同意がないと診療できない」との対応や、「治療を受けることを親に知られたくない」と申し出る患者に対しても一律に親の同意が不可欠とする対応は、この度の法改正に反した不当な理由による診療拒否として、応召義務との関係で問題が生じる可能性があります。
 なお、これに関連し、院内で使用されている書式(同意書など)に「患者が20歳未満の場合」という記載をしている場合もあるかと思います。これが未成年を対象にしているという意味であれば「18歳未満の場合」や「未成年の場合」に変更する必要があります。
(2)説明義務やインフォームドコンセントに関する同意(医療同意)
 患者は自己の生命・身体について自己決定権を有しているため、医師が患者の生命・身体に対して治療を行うためには、患者が診療を受けるか否かを決めるために必要な情報を説明する義務があります。そして、患者が医療に関する決断を下す際に、自己の病状等について説明を受け、治療内容等を理解したうえで、自主的な同意や拒否の選択できなければなりません。
ここでの患者の同意は医療同意と呼ばれるもので、この医療同意ができる能力は成年年齢とは直接リンクしません。治療内容や患者さんの個別の能力にもよりますが、概ね15歳程度の年齢であれば医療同意ができる年齢と考えられています。この程度の年齢があれば、治療内容等を理解できて有効に医療同意できるといえます。この有効な医療同意により、診療契約の有効性とは別に、侵襲的な治療行為が法的にも正当化されることになります。
以上から、18歳や19歳の方に対し、かかる意味での同意を対象として親の同意を求めることは基本的に不要となります。
もっとも、治療内容等の複雑性や患者本人の状況(判断能力の減退等)によっては、患者本人の同意能力の有無につき判定することは困難ですので、患者本人の自己決定権の尊重の観点からは、患者本人とその親の双方に説明を行い、双方から同意を得ておくことが望ましいものと考えられます。
(3)治療費の支払いを保証する目的での同意(支払の保証)
 未成年者の多くは経済的に自立していませんので、未成年者に対する診療の治療費の支払いは、ほとんどの場合親が支払うことになります。未成年者の親としても、子の治療費は当然に親が支払うべきものと考えていることが一般的だと思います。
しかしながら、本来、この治療費はあくまで未成年者が支払義務を負っているのであり、その親が法的な支払義務を負っているわけではありません。上述のとおり、通常は当然に親が支払うという意識や実態があるため、親の支払義務の問題が表面化しないことがほとんどです。
この点について、保険診療でまかなえる治療の場合は大きなリスクはありません。もっとも、歯科診療において、矯正や審美に係る治療費は高額になることもあります。後者において、治療の過程で患者や親とトラブルになり、治療費がなかなか支払われない状況が発生することもあるかと思います。このような場合は歯科医院としては当然、経済的に自立していない未成年者より、親へ支払請求をすること望むものと思います。
この点を意識して、例えば治療説明書に親権者による同意の署名を得ることにより、治療費の支払いを親権者が保証しているものと理解している先生方もおられるのではないでしょうか。しかしながら、ここでの親権者の同意は、当該書面のなかに「治療費の支払い」を親が約束(保証)するという文言がない限り、前記(1)や前記(2)の同意としての効果しかありません。
そのため、矯正や高額な自費診療の場合で、かつ、患者本人による治療費の支払いが困難と考えられる場合は、治療実施前に治療契約書を作成のうえ、治療費支払いを保証させる内容で親に保証人として署名させる対応が有効です(もしくは、一括前払いをしてもらう)。
特に、今回の法改正で18歳も成年となり単独で法律行為ができるようになりましたが、まだ学生(高校生や大学生)であったり、既に就職して経済的に自立していたりと、人によって様々です。18歳との間で診療契約は有効に成立したけれども、治療費の回収は困難というようなリスクが生じることのないようにしておく必要があります。
なお、治療費の金額が不確定の状況(今後の治療の経過により異なってくるなど)で、患者の親に今後発生する治療費の保証人になってもらう場合は、いわゆる個人根保証契約になりますので、確定的な金額(極度額)を定めなければ保証契約は無効になる点に注意してください(民法第465条の2)。例えば、「極度額〇〇円の範囲で保証する」というような文言を契約書に記載する必要があります。

4 カルテの開示等について
 18歳や19歳の患者に関するカルテ開示請求が歯科医院に対してなされた場合、これまでは当該患者本人からの開示請求だけでなく、当該患者の親からの開示請求も受け付けていた場合もあるかと思います。
 もっとも、これは「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日 医政発代0912001号 各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)において、開示を求め得る者として「患者に法定代理人がいる場合には、法定代理人」、すなわち親権者(未成年の法定代理人は原則として親権者)からの請求も認められていたからです。
 そのため、法改正により18歳と19歳は親権に服さなくなった現在においては、その方の親だからといって、患者本人へ何の確認もせず親へカルテ開示を行うことはできません。
もっとも、当該患者が親に対しカルテ開示請求の代理権を付与している場合は、カルテ開示に応じる必要がありますので注意してください。前述した指針でも「患者本人から代理権を与えられた親族」を開示請求者として認めています。
なお、カルテ(診療記録)以外の診療情報の提供についても、個人情報保護法や院内規程等に基づき、原則として患者本人の同意がない限り、親からの求めであるからと言って情報開示に応じないように注意してください。

5 最後に
 特に大事なことは、親の同意等を求める場合に、それが何を対象(目的)として求めているのかを認識し、その点について患者や親に説明できるようにしておくことです。個別具体的なケースにおいて判断に迷われる場合は、弁護士へご相談ください。
(令和5年8月24日執筆)