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Q. 質問内容
うちの歯科医院は予約制を採用していますが、予約後にキャンセルを繰り返す患者さんがいて困っています。どのように対応していけばよいでしょうか。
A. 回答内容
1 はじめに
歯科治療は、対応できる歯科医師の人数やユニットの台数が限定されていることに加え、処置が必要な歯科治療は診療前の準備行為も必要となるため、多くの歯科医院が予約制を採用しています。
しかしながら、予約した患者がキャンセルを繰り返したり、無断又は直前キャンセルすることに苦労される先生方も多数いらっしゃいます。
予約制のもとで予約がキャンセルされると、歯科医院の経営にも影響を与え、業務に支障が生じることになります。具体的には、①キャンセル時期によっては他の予約を入れることができず、その時間枠が無駄になり、他の患者の治療機会も奪われること、②予約キャンセルの電話対応等により、対応するスタッフが他の業務に従事できなくなること、が挙げられます。
また、なにより予定されていた当該患者の治療計画が崩れ、症状の悪化やその後の治療にも支障が生じる可能性があります。
そのため、予約キャンセルの問題については、前述した支障が生じないよう対策を講じる必要があります。
2 予約キャンセルに対する対策
(1)事前の対策
患者が予約をキャンセルする理由には、急な発病、事故、葬儀などやむを得ない事由の場合もありますが、予約したことを単に忘れていたことに伴う直前又は無断キャンセルの場合もあります。
予約の失念を可能な限り防止するために、例えば、ショートメッセージ、LINE、メールなどのツールを活用し、予約日前に医院からリマインドを行うことも考えられます。
また、実施する治療を治療計画に基づき行うことの重要性や、途中中断がある場合のリスクを来院時に丁寧に説明しておくことも、予約したことを記憶することにつながります。
(2)事後の対策
患者から予約キャンセルの連絡があった際、単にこれに応答するだけにとどまる対応をすると、気軽にキャンセル可能だという印象をもたれる可能性があります。そのため、例えば、可能な範囲でキャンセルの理由を尋ね、単に失念していたような事情である場合には、予約制でのキャンセルの影響を伝えるとともに、治療中断のリスクを説明することをその場で行うことも考えられます。
無断キャンセルの場合には、予約時間を少し経過後に必ず電話連絡を行い、医院が予約管理を徹底している姿勢を示すことも重要です。
3 キャンセルポリシーを策定すること
(1)キャンセルポリシーの重要性
キャンセルポリシーとは、予約をキャンセルする場合に必要な手続や、その際に歯科医院側がどういった対応をするのか等につき、具体的にルール化するものです。
キャンセルポリシーが明示されていることにより、無断キャンセルをしようとする患者への事前警告にもなり、キャンセル減少へつながる効果があります。
また、予約キャンセル後に生じる当該患者への不都合(その後の予約がすぐには確保できないこと等)について、医院側は基本的に明示されたキャンセルポリシーに基づき説明を行うことで足り、当該患者の不満やクレーム対応の減少にも資することになります。
(2)キャンセルポリシーの有効な導入方法
キャンセルポリシーは、単に院内で規定しておけばよいものではありません。
キャンセルポリシーを基に対応をするためには、事前に患者に対しキャンセルポリシーの内容が説明・周知され、かつ、それが適用されることの同意を得ておく必要があります。
キャンセルポリシーが記載された用紙を渡し個別に同意を得るという方法も考えられますが、その他の説明・周知の方法として、キャンセルポリシーを院内掲示し、また、医院のホームページにも掲載しておくことが考えられます。
そのうえで、例えば初診時の問診票などに、「当院のキャンセルポリシーの内容について理解のうえ、同意する」という文言を加え、チェックしてもらうという方法が考えられます。
これにより、後日のキャンセル対応について、医院側は明確な基準をもって対応することができるようになります。
(3)キャンセル料を定めることについて
予約のキャンセルがあった際にキャンセル料が発生するとの規定を設けるか否かについては、保険診療と自由診療とで分けて考える必要があります。
出来高制が基本の保険診療においては、事前準備にもかかわらず予約キャンセルがなされたとしても、その損失費用をキャンセル料として患者に請求することは原則として認められていません。
これに対し、自由診療については、キャンセル料を徴収することを一律に禁止する法律はなく、当事者間の事前の合意により、キャンセル料の請求をすること自体は可能であると考えられています。
もっとも、自由診療の予約キャンセル料を設けるとしても、社会通念上妥当な範囲で行う必要があります。
歯科医院と患者との間に適用される消費者契約法第9条第1項1号では、違約金等を定める規定につき「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超える内容は無効とされていることから、これとの関係を考慮のうえ、各医院においてキャンセル料の金額や発生時期などを具体的に検討する必要があります。
4 キャンセルが何度も繰り返される場合の対処
(1)診療を拒否できるか
キャンセルポリシーの有無にかかわらず、予約キャンセルが何度も繰り返される患者に対し、診療を拒否できないかとの相談されるケースもあります。
歯科医院は、正当な事由がなければ診療を拒むことができないという応召義務を負っています。予約キャンセルが続く場合が診療を拒否する「正当な事由」といえるかどうかは、具体的な事実関係や経緯により、ケースバイケースの判断になると考えます。
この点、キャンセルポリシーで診療(又は予約)をお断りする場合を定めておくことも考えられますが、基本的には、予約どおりの来院を何度か促す対応が無難です。
もっとも、明らかに受診する意志がないにもかかわらず予約後キャンセルを繰り返し行う行為は、医院に対する迷惑行為であると同時に、「偽計を用いて業務を妨害する」行為として偽計業務妨害罪(刑法第233条)に該当する可能性があります。このような場合には、診療の基礎となる信頼関係を喪失させるものとして、診療を拒否する「正当な事由」があるといえるでしょう。
(2)その他の対応
明らかに迷惑行為として予約とキャンセルが繰り返されていると考えられるような場合には、業務への支障の観点から、当該人物からの連絡を遮断することを希望されることもあろうかと思います。
上述のとおり、予約後キャンセルの回数・態様が偽計業務妨害罪(刑法第233条)に該当すると考えられるものであれば、まずは所轄の警察署に相談し、対応を検討することも考えられます(場合によっては、警察から相手方に対し今後は連絡しないよう指導してもらえる可能性もあります)。
なお、着信拒否することにより連絡を遮断する方法も考えられなくはないですが、特に医療機関が特定の人物について着信拒否をした場合、着信拒否をされた人物によるSNSや口コミ等でレピュテーションリスクが生じる可能性があります。また、着信拒否をされたと逆上して、直接来院してくる可能性もあります。そのため、このような対応は慎重に検討する必要があります。
5 最後に
以上、予約キャンセルについて記載しましたが、実際の対応については個別具体的に検討していく必要があります。個別具体的なケースにおいて判断に迷われる場合は、弁護士へご相談ください。
(令和5年12月27日執筆)